『バグダッド・カフェ』Out of Rosenheim監督 パーシー・アドロン
1987年
西ドイツ
95分
TSUTAYAで
『100人の映画通が選んだ本当に面白い映画』という企画をやっていまして
そこに
『バグダッド・カフェ』が入っていました。
ミニシアターブームを作り上げた本作は
幾度となくリバイバル上映されて
『完全版(少し長い)』
『ニュー・ディレクターズ・カット版(映像が綺麗)』と
進化を続け、未だに新しいファンを増やしている伝説の作品です。
何がそんなに魅力的なのか?
世界中の映画ファンを虜にした
『バグダッド・カフェ』を紹介します。
変なオバさんややってきて、みんながちょっとだけ幸せになる物語
ドイツのローゼンハイムからの旅行者ジャスミンは
夫と喧嘩して車を降りてしまいます。
ジャスミンはトランク一つを引きずって
砂漠の中にあるさびれたモーテル(カフェとガソリンスタンドもある)
『バグダッド・カフェ』に辿りつきました。
ところがこのカフェ、全然やる気なし。
昔は繁盛してたかもしれませんが
現在では通り過ぎる車もない有様。
コーヒーメーカーが壊れているのでコーヒーを作れず
免許がないからビールも出せない。
掃除もされておらず、女主人ブレンダが一日中ガミガミと不機嫌。
お店に集まる連中と言ったら変わり者ばかり。
そんな『バグダッド・カフェ』が
ドイツから来た変なオバさんの宿泊をきっかけに
ギスギスした心がだんだんとほぐれて
店の雰囲気が変わって行く...というお話。
本作、
抜群に面白いと思うのですが
この映画を否定的な人も多いです。
その原因は、この映画の特徴
『物語に中身がない』というのが問題かと。
ゆったりとした時間の流れの中で起承転結があるか?と言われたら
何もありません。
THIS IS 退屈です。
この
『何もない感じを愛せるか?』が鍵になります。
空気感や雰囲気を楽しむ映画なので
ヒューマンドラマを期待していると
あっと言う間に映画が終わってしまいます(笑)
『退屈な映画』=『つまらない映画』ではなく
退屈な映画だからこそ伝わるという事があります。
考えたり、深読みしたりと、文学に近い表現方法をとる映画は存在します。
そういう意味では好きな人は最高の評価をして
理解できなかった人は最低の評価をするタイプの映画と言えます。
この映画って何かに似てるなぁと思っていたのですが
ハーヴェイ・カイテル主演の
『スモーク』でした。
ブルックリンにあるタバコ屋が舞台で
何が始まるわけでもなく(まあ多少はありますが)
タバコを買いに集まってくるある連中(曲者揃い)との交流や
ちょっぴり切ない話がのんびりと描かれた作品です。
『バクダッド・カフェ』と
『スモーク』は
お洒落な人が『俺この映画好きなんだよね~』という感じに
『俺わかってますよ~』的に使やすい映画の代名詞となっていますが
この場合、映画には一切責任はなく、そいつが気持ち悪いだけです(笑)
まだ観ていない方は騙されたと思ってご鑑賞ください!
あなたもバグダッド・カフェに行ってみたくなるはず。
バグダッド・カフェに集う魅力的な変人たち
☆ジャスミン☆旦那と喧嘩別れしてバグダッド・カフェに辿りついた
超太ったドイツ人のオバさん。

基本的に素性は不明です。
何故、夫と喧嘩をしていたのか?
何故、ババリア地方の民族衣装を持ってるのか?
何故、間違えて持ってきたスーツケースに手品の道具が入っていたのか?
『子供はいない』とさみしそうに言うシーンも印象的。
そこに赤ちゃんを触りたがる理由があるんだろうけど
劇中では全然明らかになりません。
ある意味平和だった『バグダッド・カフェ』に突然現れた異邦人。

ミステリアスというか不気味(笑)
ブレンダが怖がるのも無理はないです。
この映画で驚かされるのが
ジャスミンがどんどん女性として魅力的になっていく事。
最初は太ったオバさんくらいにしか思ってなかったのに
どんどん可愛らしくなっていくんです。
これはもう魔法としかいいようがありません。
☆ブレンダ☆『バグダッド・カフェ』の女主人(ボス)
気に入らない者には100%の力でガミガミ怒鳴りつける鬼嫁。

ただでさえ旦那が出て行った事で腹が立っているのに
ジャスミンが勝手にカフェやオフィスを掃除してしまったり
子供たちがジャスミンに懐いてしまったりと
神経を逆なでする事ばかりするジャスミンを怒鳴りつけますが
自分が他人の気持ちを顧みない生き方をしていたせいだと気づき
それを気づかせてくれたジャスミンを信頼するようになります。
☆コックス☆ハリウッドからやってきた爺さん。
トレーラーハウスに住み、毎日カフェに顔を出します。

バンダナがイカス
絵が趣味。

独特のタッチ。
昔は映画の背景を描いたりしていたようで絵が得意です。
ジャスミンの魅力にとりつかれ
絵のモデルになってくれと頼みます。
ラストシーンでの頑張りが最高です。
☆サル☆ブレンダの旦那。いかにも優しそうな男で
お人好しな性格の為かどうも商売が下手そう。
ブレンダにガミガミ叱られて家出中。
でもブレンダが気になって、いつも遠くから双眼鏡で見てます。

ブレンダ・・・
オー・・・ブレンダ・・・
帰れよ!☆デビー☆刺青の彫師。バグダッド・カフェに長期滞在している客。
一匹狼的な雰囲気があり、ジャスミンを受け入れようとしません。
揉め事が好きなのか、何かある度に必ず見切れている(笑)
今読んでいるのは

『ベニスに死す』!
揉め事が好き

物陰からチラ見。
通り過ぎついでに
チラ見。
隣の部屋で

盗み聞き中。
お化粧中と見せかけて

鏡越しのチラ見。
急に出て行くと言い出すデビー。

バグダッドカフェの人々に家族のような絆が芽生えた時
『仲が良すぎるわ』と言い残し出て行ってしまいます。
個人的には大好きなキャラクターで、
甘ったるい展開に対してのスパイスのような存在です。
みんなで仲良くなってハッピーエンドにしないところが最高ですね。
☆サロモ☆ピアノばっかり弾いてる青年。ブレンダの息子。
子供っぽいがなんと子持ち!
怒られるサロモ。

すげーへこむ。
バッハを弾くサロモ。

聴くジャスミン。
カフェにしかピアノがないので
客がいるところでは弾くなとブレンダに言われている。
彼が弾くピアノを気持ちよさそうに聴くジャスミンが印象的。
バッハの故郷はドイツ。故郷を思い出していたのかもしれません。
☆フィリス☆モテモテの女の子。ブレンダの娘。
メンズに胴上げされるほどモテモテ。

過激な男友達とコンサートに行ったり
男達に家まで送らせたりと
遊んでばかりの印象がありますが
客室の掃除などお手伝いもしている様子。
ジャスミンと一番最初に友達になれた子でもあります。
☆カヘンガ☆バグダッド・カフェの従業員
インディアン系の心優しい男です。
やる気がなさそうに働いてはいるが
バグダッド・カフェに集うみんなを気遣っています。
ジャスミンが帰ってきた時に
ポットに濃い目のコーヒーを作るシーンが好き。

※ジャスミン曰く、アメリカのコーヒーは『茶色いお湯』
☆エリック☆テントを背負ってやってきた旅人。
タンクトップに短パンでひたすらブーメランを練習する青年。
ストイックな印象もあるが、絶対に変人!
後半ではショーの照明を楽しそうに手伝ってました(笑)
誰がなんと言おうと

ブーメランが青春
ショータイムでは

楽しそうにお手伝い!
本作はブーメランを映し出すシーンがとても多く
『元の場所に戻ってくる』という意味を含む描写なのかもしれません。
☆バグダッドカフェ ファン第一号☆どんなショボイ手品でも全力で喜ぶ!

古くからの常連ぽい雰囲気があります。

やがてこの店の手品が評判になり、客が増えていきますが
たぶんコイツが宣伝したんでしょう。

クライマックスでは何故か歌いだす!ウケる!
この他にも奇妙で不思議な連中が登場します。
どうにも気になるキャラばかりです。
コーリング・ユーの美しい歌声
『バグダッド・カフェ』の魅力は
映像の美しさや、心温まる物語だけではありません。
なんと言っても音楽!
ジュベッタ・スティールが歌う主題歌『コーリング・ユー』が素晴らしい!この映画を観終わると、頭で何度もリピート再生されてしまいます。
砂漠の中にポツンと存在する『バグダッド・カフェ』が目に浮かびます。
オリジナルサウンドトラックは超おすすめ!
くたびれた時に聴きたくなるので、iPodに入れています。
細かい演出や、心憎いユーモア
なんとも美しい色合いの映像と、それを盛り上げる音楽。
ギスギスした心が少しずつ癒されていくような物語。
アイスクリームがゆっくり溶けていくような時間。
この映画にしかない魔法を感じました。

何かが抜きん出て絶賛できる映画ではありませんが
自分の中に足りていない何かを満たしてくれるような
不思議な作品だと思います。
ちょっと前向きになるだけで
イライラばかりだった毎日が違って見えるという
『小さな幸せ』を教えてくれる『バグダッド・カフェ』
なんかイイ映画観たなって思えるはず。
是非。
はじめまして♪
今日まさにミニシアターで見てきました!
>>この映画で驚かされるのが
ジャスミンがどんどん女性として魅力的になっていく事。
最初は太ったオバさんくらいにしか思ってなかったのに
どんどん可愛らしくなっていくんです。
これはもう魔法としかいいようがありません。
ほんとそれ!オシャレ映像マジック!
アメリみたいな可愛い娘さんじゃなく、太ったおばさんが自分と周りを幸せにしていく様を見ていると、なんだか勇気がわきました。
ジャスミンの夫がどうなったのか、あの喧嘩はなんだったのか、説明がなかったのはびっくりでした。
私はカーズを思い出しました。(映画経験の乏しさよ!)
カーズってこの映画へのオマージュだったのかなぁ。
とても素敵なブログですが、見てない映画のを読んだら楽しみが減るので、また映画見たあとで寄せてもらいます。
> はじめまして♪
> 今日まさにミニシアターで見てきました!
ピピネラさんはじめましてー!
劇場で観たんですねー!羨ましい!
最新の技術でとても美しくなったので
いつか観てみたいなーと思っています。
> アメリみたいな可愛い娘さんじゃなく、太ったおばさんが自分と周りを幸せにしていく様を見ていると、なんだか勇気がわきました。
そうなんですよねー。本当に魔法。
この映画のキモといえるポイントだと思います。
> とても素敵なブログですが、見てない映画のを読んだら楽しみが減るので、また映画見たあとで寄せてもらいます。
ネタバレには注意してるつもりなんですが…
できれば何も観ない状態で観たいですよねー。
私もそうです(笑)
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過去の記事の一覧があります。
もしご覧になった映画がありましたら読んでみてください。
これからもよろしくお願いします!
コメントありがとうございましたー。
この夏の旅先でのこと。londonに住む(2.5~9才)ツインの孫娘(現9才/yeay5)が地元父兄手作りの”小劇団”で「オリバー」(ミュージカルドラマ)の端役(夫々独唱の場面あり)に出演(8~15才の女子達16名の構成)。プロ顔負けの演技力(歯切れの良いパンチの利いた歌を交えたミュージカルドラマ)だった。彼女らの人間誰しもが持つ「玉石混淆、表情豊かに多様な個性」をたっぷり活かした熱演。嫁に帯同されて家内と鑑賞し感動した。
西欧教育の優れた原点は正にここにありと言わんばかり。彼らの歴史的な芸術的遺産をドラマ化し「人間とは何か」を示唆しながらミュージカルで演じるという、伝統的習慣を小さい時から継承して身につける(授業以外に)人間教育の実態。やがて、それが良い意味での自己主張力、人間間の優れたコミュニケーション力醸成に大きく役立っていることを如何なく知らしめるもので、また、「ミュージカルドラマや映画のもつ価値」も改めて学んだ気がする。
この体験も手伝ったのか、本映画はほんとに魅力のある映画ドラマであることを知った次第。この齢で、ミュージカル映画の素晴らしさを知ったのである。つまり、私の場合、安易に妄信し一喜一憂しがちな「ドラマ全体の真実性」を楽しみながら、肩を凝らさず見極めドラマの本質を学ぶ、「ドラマに対する客観的な見方」を老若(低学年含む)男女が共有して学び教えてくれるのが「ミュージカル映画やドラマの良さ」ではないかと。
加えて、国の伝統的、歴史的な芸術をこのように、幼児教育の中に取り入れて行くことは、大人になってからの人間相互の健康的な「郷土愛、国家愛、情操、自己実現力、客観性、個性尊重(安易に妥協しない、違うことが当たり前)、テイームワーク」の育成に頗る役立つのではないかと、
この度、改めてツインの孫から学んだことを強調しておきたい。
(74才爺馬鹿から)
Shunsuke Morita様
コメントありがとうございます。
なんとも素晴らしい文才!
Shunsuke様の感動が伝わってきました。
目からウロコな感動ってありますよね。
幼い子供から教えられるハッとした感動。
バグダッド・カフェは完全版が出るまでは、少しミステリアスで不思議に観るものをどんどん入り込ませる映画でした。ところが完全版が出たら少しエロくなって凡庸な映画に成り下がってしまった。ニュー・ディレクターズ・カット版は完全版が元になっているのでもうもとに戻ることができませんでした。映画館や最初のビデオのVHSで出てたのですが、そのVHSの段階で凄く人気が出てから完全版が出てしまいました。その後も全て完全版が元になっているので凡庸さが消えませんでした。元の上映された物をずいぶん探したのですが、出てきませんでした。具体的に書きますと、記憶が少し曖昧になっていますがコックスが下着姿のジャスミンを書くシーンとかありませんでした。ジャスミンが外で凧かなにかで遊んだりするシーンもありませんでした。
非常に残念でなりません。もっとミステリアスな名画でした。
NABESANSさんコメントありがとうございます。
> バグダッド・カフェは完全版が出るまでは、少しミステリアスで不思議に観るものをどんどん入り込ませる映画でした。
勉強不足でオリジナル版を観ていないのですが
たしかに蛇足感のあるシーンも多いようですね。
オリジナル版を愛する気持ちって凄くわかります。私にも何作かそういう映画があります。
バグダッド・カフェのオリジナル版を見る事があったら比較してみますね。
そしたらNABESANSさんに共感できるかもしれません。
予告の名作感
> 予告の名作感
たしかに名作感ありますねー(笑)
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